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女性医師たちの歩み

生きているとは学んでいること

正木 初美

「ありがとうございました。先生のおかげで元気になりました。」と、いつもの笑顔でドアに向かう患者さんの後ろ姿。

(・・・いいえ、こちらこそですよ。入ってこられたときより背筋もシャンとしたかな。がんばって、また前を向いて歩いてくださいね)・・・私が、医師としての喜びを感じる一瞬です。

「医師として病気の人を幸せにするお母さんを僕は尊敬している。ニュースで世界には病気だけじゃなく困っている人がたくさんいることを知った。僕はそんな人たちも幸せにしたい。医者になってほしいと思っていると思うンだけど、もっとたくさんの人たちを・・・」。きらきらと輝く眼で東京へ旅立った子どもの声が聞こえてきます。

病に倒れた開業医の父の跡を継いで、間もなく子どもが生まれました。医師としての仕事を「こなし」ながらの子育てになりました。母や身内の応援を受けながら、彼に寂しい思いをさせないようにと、診察の合間や休憩時間もちろん診察後も、二人三脚のように彼と行動をともにしました。

毎週、単身赴任の主人の勤務する岡山まで新幹線での往復、車内での読み聞かせ。その中で、「教育ママ」になってはいけない。「べったり」ではなく、一緒にいて「お互いに心地よい距離を保つ」こと。一生懸命子どものことを考えつづけた日々。生活すべてが彼を中心にまわっていたのです。

一方で、痛みや病に悩み苦しまれている方を診察している医師でした。もちろん、子育てにかまけて手を抜いていたわけでは決してありません。しかし、頼って訪ねてきてくださる人々の訴え・悩みや苦しみをしっかり全身で受け止め、きちんと対処できているか、心からお話しできているか、悩みや心が軽くなるようにお相手できているか、痛みや苦しみを十分癒すことができているか、などと振り返ってみれば、自信をもって「イエス」ということはできない毎日でした。

そんなときでした。夢に向かってはばたいた彼のことばが、大きな夢と生きがいをもつことを教えてくれました。「医者を継がない」のは残念だけど、そんな小さな残念より、もっと大きな喜びをもらえました・・・お母さんも、もっと頑張って、もっとたくさんの人に幸せになってもらうからね・・・。開院当時から世代を超えて、たくさん来ていただいている患者さんには感謝の言葉もありません。

20年以上も医師として生きてきたはずですが、「医師としての自分に何ができるのか。何をすべきなのか。」 親の跡を継いで既定路線のように医師になった私が、もう一度「自分がなりたい医師、ならなければいけない医師」について学び、考える日々が続いています。嬉しい子どもの巣立ちとともに、彼のことばを通して神様からいただいた素晴らしい贈り物でした。子育ても仕事もいろいろと悩むこともありました。でも今、充実しとてもやりがいを感じています。年齢を重ね経験を積み患者さんのことも心もより深く診ることができるようになった気がします。

子育てと仕事など悩んでいらっしゃる女医さん!「今」と「経験」の積み重ねが私たちの人生です。心配しないで!一緒に頑張りましょうね。

2013年4月

2009-2013 Osaka Medical Women’s Association.